不動産の売買契約を締結する際には、買主は売主に手付金を支払います。
契約締結後に、何らかの事情に変化があり、買主が契約をキャンセルしたいとなった時に、契約時に支払った手付金は取り戻せるか。
手付金が戻る場合と戻らない場合があります。
どんな場合なら戻るのか、また戻らないのか、この疑問に不動産業界歴30年の筆者が解説します。
不動産の売買契約した時の手付金|契約キャンセルの時には戻るのか
先ず、最初に認識しておくべき事は、売買契約は「法律行為」であるということです。
ですので、不動産の売買は法律に沿って物事が決められているということと、もしも売買契約書の中で「特約」などを取り決めをしていることがあれば、それが法律と同じように効力を持つということです。
その場合、「一般的には・・・」という考え方は意味をなさなくなり、「契約書になんて書いてありますか」が全ての基準になるということです。
一般の方は、法律行為であるという認識が、大変失礼ながら「甘い」ということが時々発生します。
自分は不動産の専門家ではないから・・・
は通用しないということです。
ですから、例えば、その時は、良いと思って契約したが、その後事情が変わったので、やっぱり辞めます。手付金を返して下さい。
ということは、簡単には出来ないことであり、契約書にそって解決していくことになります。
手付金が戻る場合
契約書の中のローン条項(融資利用の特約)に合致する場合のみ、手付金は戻ることになります。
ローン条項では、通常、不動産売買契約締結後に、住宅ローンの本申込が否決された場合か承認はされたが融資金額が減額承認となり、減額分を現金で用意できない場合のみ、契約はなかったこととして処理します。
売主は受領済みの手付金を無利息で買主に返還すると記載されています。
ただし、ローン条項は契約書に必ず記載されている条項ではありません。
ですから、ローン条項を入れていない契約書も存在します。
これは、売主と買主が合意する契約条件によります。
ローン条項がある場合、不動産仲介会社の役割として、売買契約後にローン不承認等によるリスクを回避するために、買主に必ず事前審査を行なってもらいます。
そして、ローンの事前審査の事前承認が下りた後に、売買契約をするのが、一般的です。
ただし、ローン条項の記載があったとしても、次の場合でローンが不承認になる場合は、、「白紙解約」とはなりません。買主は注意しなくてはなりません。
ローン本申込から不承認までに、買主には帰責事由がないことがポイントになります。
買主になんらかの帰責事由があれば、白紙解約は認められません。
ローンが不承認となる原因が買主に責任があるとされる場合です。
<以下の場合、買主に帰責事由があります>
- ローンの事前承認が下りた後で、借金をしてしまった
- ローンの本申込をする前に転職をしてしまった
- 事前審査でOKになった住宅ローンではない金融機関を利用しようと思ったが、その金融機関では承認にならなかったので、売買契約をやめたいと思った
- ローンをより有利な条件で使用するために、「適合証明」など別の書類を受ける必要が出てきた。しかし、それらにかかる諸費用が予定外であり、売買契約をやめたくなった
上記のケースのように、買主の「故意また不注意、一方的な都合」により住宅ローンが不承認となった場合には、白紙解約は適用されません。
白紙解約ではなくなりますので、手付金は戻りません。
それどころか、買主の都合による契約解除となると、売主から契約解除に伴う損害賠償請求を受けることになります。
その金額は、売買契約書に記載されていますが、売買代金の10%〜20%と記載されているはずです。
手付金が戻らない場合
中古物件の場合は、契約書で「手付解除期限日」を設定しています。
その期限の日までに、「買主は手付金を放棄すること」「売主は手付金を返還し、更に同額の金銭を買主にわたすこと」によって、契約を解除できます。
ですので、売主の都合により契約解除となる場合は、手付金は戻ってきます。
では、手付解除期限の日を越えてからの契約解除の扱いはどうなるか、といいますと「違約による契約解除」という方法を選択することになります。
売買契約の中に損害賠償の予定額として違約金の額が決められています。
買主と売主で、契約を解除したいと思う方が、相手方に違約金の金額を支払って契約解除の方法を選択することが出来ます。
新築物件の場合の手付解除期限は、やや曖昧な表現になるが、「契約の相手方が契約の履行に着手するまでの間であれば、買主の手付金放棄、あるいは売主の手付金倍返しによって、契約解除できる」と規定されている。
参考までにこれは民法で定められている。
この「履行に着手」ということが、いつまでを指すのかについては、今の所は過去の最高裁の判例が手本とされている。
「履行の着手とは、客観的に外部から認識できるような形で、契約の履行行為の一部をなしたこと」とされている。
手付金のない売買契約
そもそも、手付金の無い場合はどうするのかについて、解説します。
買主の経済状況によっては、手付金0円という売買契約もある。
しかし、この契約が怖いのは、「期限日まで手付金放棄による解約ができないこと」です。
例えば、売買契約後の翌日に、買主に何らかの事情が発生して契約解除したいとなった場合、手付金放棄の契約解除が出来ません。
この時、「お金がないから払えません」は通用しないのです。
契約の相手方(売主)が契約書の内容に則って、「損害賠償請求」を起こすでしょう。
裁判の結果は明らかであり、「損賠賠償額の支払をしなさい」という判決が出来ます。
不動産の売買契約|白紙解約と契約解除の違い
ここで理解する必要があるのは、「白紙解約」「契約解除」は全く意味が違うということです。
白紙解約は、契約はなかったものとする事です。
契約解除は、契約自体は成立したままであり、その上で、「解除」という手続きを取ることです。(解除した後も売買契約自体は消えて無くなるわけではありません)
白紙解約の場合なら、買主が支払った手付金は戻ります、と解説しました。
契約解除の場合だと、手付金は戻りませんし、違約金の請求を受けますと説明しました。
しかし、違いは、手付金の扱いだけではありません。
仲介会社に対して支払う「仲介手数料」の支払請求も受ける事になります。
不動産仲介会社に支払う「仲介手数料」は、宅建業法で規定されています。
「売買契約の成立に対して、売主および買主は、宅建業者に仲介手数料を支払う」と規定されています。
白紙解約の場合ならば、売買契約を無かったものとしますので、仲介料の請求を受けることはありません。
しかし契約解除の場合は、売買契約が無くなったわけではありません。
ですので、仮に売主か買主の一方の都合により契約が解除される場合であっても不動産仲介会社は、宅建業法に基づき、仲介手数料を請求する権利を持っています。
仲介手数料の請求が発生する必要要件は、「決済引渡」ではありません。
あくまでも「売買契約の成立」です。
ですので、もし万が一、売買契約を解除する場合は、このことも含めて検討する必要があります。